モバイル広告費が消費者行動の進化に急速に追いつく中、モバイルとデスクトップの両方にまたがって同じユーザーにターゲットを絞る、という非常に魅力的な提案を行う新規参入者が多数登場しています。

しかしながら、この提案は誰もがそれを気にすべき理由を説明できていません。その根本的な前提には、複数のデバイスにまたがる同一人物を識別することがマーケターの ROI の改善につながるという考え方があります。これは確かに論理的に聞こえます。広告パフォーマンスを促進するひとつの主要因は露出頻度ですから、複数のデバイスにまたがってこの頻度を高めることは有効であるはずです。どのみち消費者は、ノートパソコンを消してスマートフォンを手にしていてもそのIDを変更するわけではありません。

しかし、この考え方は、消費者が自分が使用するデバイスによって異なる考え方や行動を示すことを正しく理解していません。消費者ゴールデンタイムにテレビを見る時も、Amazon で商品を探している時も、またFacebook のフィードをチェックしている時も常に同一人物ではありますが、それぞれがこれらのコンテキストに持つ考え方や広告受容性は大きく異なります。この事実と、コンバージョンには双方向性が必要であることを踏まえると、マーケターたちが消費者にあらゆるデバイスを通してただひとつのシームレスなコンバージョンを期待するのはとても無理に見えます。

顧客の維持と創出

クロスデバイス広告の使い方を正しく理解していなければ、リテンション(顧客維持)マーケティングと見込み客発見の融合は、マーケターにとって無駄な高費用と混乱だけを残すかもしれません。

高いレベルでは、デバイスからデバイスへと移動する同じ消費者を識別できることに興味深いことかもしれません。間違ったカタログを誰かの家に送っていては費用が嵩みます。従って顧客関係管理(CRM)は、購入履歴データや、同一人物と特定可能な消費者に関するその他の情報を購入して、複数のチャンネル(例:ボイス/コールセンター、対面/カスタマーサービス、デジタル/電子メール、印刷物/ダイレクトメール)に渡って消費者にクロスセリングやアップセリングを行い、ROI を改善します。顧客維持と再獲得の戦術では、高価値顧客と低価値顧客に合わせてオファーを効果的にカスタマイズします。そのため、リテンション・マーケティングは、しばしば個人情報(PII)を用いて、複数のデバイスにまたがる同一顧客を識別する必要があるかもしれません。 

一方、アクイジション(新規顧客獲得)マーケティングでは、主に特定の識別子に依存して新規顧客を引き寄せ(定義により、これらの消費者はまだ広告主と関係ができていないため)、複数のデバイスにまたがる同一ユーザーを識別する必要はありません。このような技術が有益になる唯一の理由はそれでアクイジション・マーケティングの費用を抑制できるからです。しかしながら、同一ユーザーを複数のデバイスにまたがってつなぎ合わせようとするこの技術では、リーチは減少し、コストは増加するため、マーケターはプライバシー問題の以外の部分でも、この新しい戦術には慎重に対応したほうがよいでしょう。

リーチの減少

デバイスからデバイスへ同一個人の活動を追跡することは、新規顧客獲得という点ではほとんど価値がありません。まず、ターゲットプールを複数のチャネル(例:パソコン、スマートフォン、タブレット、テレビ、ラジオ、家庭外視聴者)にまたがって認識できる特定のオーディエンスに限定しなければなりません。

上記のデバイスを持つオーディエンスが重なり合っているベン図を思い浮かべてください。中央部分に該当する人達たちの部分集合ほど小さくなっています。すべてのデバイスにまたがる人々に非常によく似た人々をもっと広範なネットワークを使用してターゲッティングできるすでに実行可能な技術もあるのに、なぜ高い費用を払って遙かに少ないオーディエンスにリーチするのでしょう?

さらに、これらの個人がどのように各デバイスとメディアに関わっているかを考えてみてください。使用中のデバイスやその時の活動によって人々の関心はまったく異なるのに、クロスデバイス・トラッキングで同じようなメッセージを送っていては、多額の広告費を無駄遣いすることになります。

アクイジション・マーケティングで行動喚起への反応が比較的低いとしたら、広告主の製品とサービスに最も反響する行動と関心がはっきりと認められる幅広い消費者を広告のターゲットにするのが最適なアプローチということは明白です。 

戦術とソリューション

デジタル広告の基本的な課題は、ブランドの親近感と認知度、コンバージョンや店舗での購入など、特定の目標を達成するためにROIを改善することです。デバイス間の消費者をターゲットとするには、リーチと戦術のROIが適切なマーケティング目標に適用されているかを点検することが重要です。制限やプライバシーの関係でからすると、デバイス間で同一個人にターゲットを絞るのは、リテンション・マーケティングには最適です。

アクイジション・マーケティングも、クロスデバイスの分析や計画から利益を得るかもしれません。しかしながら、使用するデバイスごとに考え方が変わることや、アクイジション・マーケティングでは膨大な数の消費者がターゲットとなることを考慮すると、各デバイスで同一ユーザーを見つける技術をあれこれと工夫するより、各デバイスのチャネル固有のターゲティング能力を活かすのがベストな方法でしょう。マーケターは、モバイルとデスクトップをつなぐことだけに集中しないで、すべてのチャンネルを自由に分析する技術を使用すべきです。

この投稿の所定の版は『AdAge』に掲載されました。